下肢静脈瘤

Q.下肢静脈瘤とは?
足の静脈が膨れてしまい、ボコボコとコブのようにはれ上がってくるものです。小さいのから大きいものまで、様々なものがあり、見た目にいいものではありませんので、女性にとっては、嫌われる疾患の一つです。症状としては、静脈の逆流に伴い、血液の鬱滞が、だるさ・むくみなどの症状をおこし、ひどくなると湿疹から潰瘍形成などと進行していきます。しかし、滅多に出血したりすることはありませんし、静脈瘤自身が生命を脅かす病気ではありません。

Q.下肢の静脈には、どんな静脈があるのでしょうか?
表在静脈・深部静脈・穿通枝(交通枝)の3種類があり、表在静脈は大伏在静脈・小伏在静脈の2種類、深部静脈は骨の脇、筋肉の中を走ります。穿通枝は、表在と深部をつなぐ静脈です。動脈と違って静脈には弁構造があり、これは血液が重力に負けて逆流しないように食い止めるものです(逆流防止弁)。


Q.下肢静脈瘤になる原因は?
女性の場合は、多くの場合、出産に伴うものが多いといわれています。それ以外に、長期間の立ち仕事、遺伝などと、様々な因子が挙げられており最近は、男性の静脈瘤患者も増えてきています。静脈瘤の直接の原因としては、弁の逆流が一般的です(弁不全)。表面を走る血管(表在静脈)の逆流防止の弁が壊れる事で、静脈の血液が逆流して、下の方の血管が逆流してきた血液で膨らんできてコブ状になってしまいます。

Q.下肢静脈をほうっておくと?
初期の症状としては、静脈がコブ状に膨らんでいる、あるいは、血管自体が少し太めの状態として見られるだけで、症状がないことがほとんどです。徐々に、静脈の欝滞が進行し、だるさ・むくみ・つかれなどが生じてきます。足の痙攣(こむらがえり)などもおこってきます。更に、進行してくると熱感・皮膚の変化(かゆみ、湿疹)などが生じ、適切な処置を施さないで放置すると、皮膚炎・色素沈着などから、皮膚硬化・潰瘍を生じて治療も大変な状態になります。

Q.どんな静脈瘤があるのでしょうか?
原因が静脈の逆流防止弁の逆流(弁不全)であることから、同じようなタイプの静脈瘤に分類する事ができます。
・大伏在静脈瘤  : 大伏在静脈が原因となるもの
・小伏在静脈瘤  : 小伏在静脈が原因となるもの
・分枝静脈瘤   : その枝や交通枝が原因となるもの
・網目状静脈瘤  : 更に細かいもので静脈径3mmほどのもの
・クモの巣状静脈瘤:静脈径1mm程度の毛細血管の拡張に伴うもの

Q.下肢静脈瘤の検査法は?
以前は、静脈造影法など侵襲、痛みを伴う検査を行ってきましたが、現在は超音波検査のみで下肢静脈瘤の検査を受けることができるようになっています。

Q.下肢静脈瘤の治療法は?
現在、手術法(選択的ストリッピング手術、高位結紮術、不全穿通枝結紮術、瘤切除術)、血管内手術(レーザー治療、ラジオ波治療、グルー手術)、硬化療法などの方法があります。下肢静脈瘤は、個人個人、様々な血管が拡張して瘤を作っており、決して同じものはありません。しかし、原因が静脈の逆流防止弁の逆流であることから、同じタイプの静脈瘤は、同じように治療する事ができます。以下に、その例を挙げます。各々の治療法は、瘤の状態によって適切に治療法を組み合わせることによって行ないます。

大伏在静脈瘤 ストリッピング・レーザー治療・ラジオ波・グルー手術
小伏在静脈瘤 高位結紮・ストリッピング・レーザー治療・ラジオ波
分枝静脈瘤 高位結紮・不全穿通枝切除・瘤切除・硬化療法
網目状静脈瘤 硬化療法
クモの巣状静脈瘤 硬化療法・美容形成でのレーザー治療
※もちろん、手術などをしないで保存的に経過を見ることもあります。以下に挙げる方法で、症状の緩和をはかり、進行を防ぐことができます。しかし、症状は改善しますが、静脈瘤が治るわけではありません。

1 長時間の立位・座位(イス)を避ける
2 長時間の正座などは避ける
3 足首の運動をする。歩行など
4 暖めすぎない
5 寝るときは下肢を挙上する
6 弾性ストッキングなどの圧迫療法を行う
・足首の圧が10~20mmHgの弱圧のものから開始
・医療用のものは、きつくて直ぐには履けないこともあります
7 妊娠中に出現するものは、弾性ストッキングなどにて悪化しないように予防することをお勧めします

Q.どんな手術をするのでしょうか?

瘤切除術・不全交通枝結紮術

静脈瘤そのものを皮膚を小切開(5mm〜10mm)して結紮切除します。不全交通枝や部分的な静脈瘤の処理などを行ない、溶ける糸を使用しますので抜糸は必要ありません。下記に述べる手術や、レーザー治療、硬化療法などと併用して行なう事もあります。

高位結紮術

大伏在静脈・小伏在静脈の分岐部に逆流があるものに対して、その部位で、静脈を結紮切除する方法です。鼡径部・膝の裏に10mmほど切開をいれて静脈を結紮切除します。静脈の分枝などが多いので、処理をきちんと行なう事で再発などを防ぎます。大伏在静脈瘤の一部(軽度のもの)、小伏在静脈瘤に対して利用します。

選択的ストリッピング手術(内翻法による)

伏在静脈瘤に対して一般的に施行される手術です。大伏在静脈の場合は、鼠径部に1.5cmほど、下腿の膝下1/3ほどに1cmの皮膚切開をおいて、静脈内に専用のワイヤーを挿入し静脈を内翻して抜去する方法です。これにより、神経の損傷を最小限に防ぎ、なおかつ、従来の、足首までの全長ストリッピングに比べて、侵襲の軽い手術となり、日帰りが可能となります。術後は、1日弾性包帯で固定し2週間弾性ストッキングを履いてもらいます。日常生活は、特に制限する必要はありません。

レーザー治療(血管内治療)

(エンドレーザー手術・レーザーストリッピング)とはどんな治療ですか?
保険適応の始まる前、2008年より当院ではレーザー治療を行っています。最初は、1320nmの波長をもつパルスヤグレーザーを使用し、静脈内にレーザーファイバーを挿入して静脈内を焼却し、閉塞させる方法で行っておりました。効果はストリッピングと同等で、皮膚を切開することがないので、美容的な効果に優れています。また、内出血をはじめ、従来のストリッピング手術でよく見られる合併症も少なく、術後の早期の社会復帰を可能とする治療法です。アメリカや欧米では、既に、大伏在静脈の治療のほとんどが、血管内治療で行われています。2016年より保険適応のレーザーが当院にも導入されましたので、現在はそれを用いいて、行っております。このレーザーは、1470nmの波長のレーザーで、ファイバーがtwo-ringと成っており、より安全に、より確実に治療が行えます。


※レーザー治療後は1日弾性包帯にて固定後、弾性ストッキング3日間連続にて装着後、日中のみ2週間装着します。

グルー治療(血管内治療)

レーザー手術、ラジオ波手術では、レーザー、ラジオ波では、使用する際に熱が発生するため、痛みを伴います。そのため、伏在静脈全長にわたって、局所麻酔を行わないといけませんでした。2019年12月より下肢静脈専用に開発された医療用接着剤(グルー)を用いる新たな、カテーテル治療が日本でも使用できるようになりました。当院でもこの新しい治療を用いて、現在治療を行なっております。

選択的ストリッピングとレーザー手技との比較
  従来法 レーザー
学習曲線
合併症の程度
再発率 ○中期的
審美的な状態
社会復帰
コスト・手術時間
材料費 保険適応
薬剤費
手術の合併症を教えてください。
出血 血管の処理に伴うものであり、輸血などはする事はありません。
血管障害 深部静脈血栓症0.1〜0.6%ほどと言われています。
神経障害 ほとんどが保存的改善します。
術後の疼痛 痛み止めで回復。
術後皮膚炎 皮膚硬化を伴う皮膚炎を来たすことがあります。
再発静脈瘤 再発は0ではありません。
遺残瘤 小さなものが遺残する可能性ありますが、硬化療法などで対処することがあります。
皮膚かぶれ テープやストッキングにより、かぶれることがあります。
Q.硬化療法とはどんな治療ですか?

硬化剤を使用して静脈をつぶす方法です。硬化剤(当院では主にポリドカノールを使用)を注入する方法で行なっています。また、現在は、硬化剤と空気と混ぜて行なうFoam硬化療法を行なっています。

手技

・横になり血管に27G〜30Gの注射針を使用して薬液を注入します。
・ガーゼなどで圧迫し、弾性包帯を巻いて固定します。
・30分ほど足を動かして帰宅となります。
・翌日、自宅にて弾性包帯をはずし、弾性ストッキングを装着します。
・3日ほど夜間も装着し、その後は日中のみ装着とし、約4週間装着します。
・クモの巣状・網目状などの小さい静脈瘤に適します。
※伏在静脈瘤などの大きな静脈瘤は再発などの危険性が高いので、硬化療法のみ単独で行われることはなく、手術・レーザー治療などと組み合わせて行ないます。全ての治療が硬化療法でできるわけではありません。

合併症

瘤内血栓・色素沈着・注射部の浮腫・薬剤性皮膚炎・皮膚潰瘍・壊死
※ほとんどは保存的に加療できます。

長所と短所
長所 傷がない(侵襲が軽い)、美容的に良い
短時間で済む、外来で治療か可能
仕事に影響しない
短所 合併症がある 、通院が必要
注射が嫌いな人は少し抵抗がある
弾性ストッキングの装着の問題
Q.下肢静脈瘤についてお悩みの方へ
下肢静脈瘤は、基本的に生命の心配はありません。しかし、慢性の疾患であり症状は、遷延し、皮膚炎・皮膚硬化・潰瘍形成など、非常にわずらわしいものへと変化します。現在、非侵襲的な検査(体にやさしい、 痛みを伴わない)が発達し、診断も容易になっています。さらに治療に関しても、レーザー治療を始めとする低侵襲治療が行われるようなり、麻酔も局所麻酔下で行い、社会復帰も早期可能な治療となってきています。すべての疾患がそうであるように、悪くなってから治療するよりも、早い段階での予防・治療が大切です。心配な方は、一度、石垣島徳洲会病院外科外来を受診なさってみては如何でしょうか?

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